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【追いかけてカルバイガル】


 いつもより少し浮き足立ったカルバイガル。
 理由はかの恋人たちの一大イベントの一つ、通常バレンタインデーとか呼ばれている。
 甘いチョコの香りが漂うのも必然と言えよう。


 そしてもちろん、恋する少女チャガンにも例外ではなく、
毎年恒例と化したこのイベントに乗じ、手作りのチョコを渡そうと、
今現在見つめるその先には神官タウ。
 浮世離れした空気はこの甘ったるい空気が立ち込める中でも変わることなく、
ただ本日は少しばかり隠れ気味に生活しているように見えるのは
気のせいばかりではないだろう。

 チャガンは朝から手作りチョコを渡す機会を伺っているのだが、
如何せん上記で述べたようにタウ自身が捕まりにくい状況にいる。
 意図していないのであればこうはならないほどにだ。
 別に自分を避けているのではないと言うことぐらいわかっていて、
普段ならばなんの問題もなく渡せるのにとむくれてみるが、
かといって他の日にチョコを渡しても意味は激減してしまう。


 朝の御勤めは常より早く、そして長く。
 タウがチャガンの前にようやく姿を現したのは昼食のためサラの営む喫茶店に現れたとき。
 チョコを渡そうと駆け寄ったものの、タウを見咎めた女性たちのあまりの熱意に負けてしまった。
こういう場合、普段から傍にいられるチャガンは弱かったらしいが・・、
そのまま女性の波に飲まれたタウはチャガンを気遣うこともできず逃げ出すように
まだ仕事が残っていると言い残して去っていった。
 例年はこの辺りでタウがチャガンに気付いてくれて渡せていたのだが・・・。


 それからやっと見つけたタウは女性からの好意を嫌がっているわけではないのだろうが、
さすがに疲れた様子で農夫チェチェクと何やら会話の真っ最中。
 その憂いの表情もいい、などと一体どれほどの女性が思うのか。
 チャガンも例外ではなく、その姿に見惚れ、また邪魔するには忍びず、
その終わりを待っている次第である。

 可愛らしくラッピングされたチョコはなんだかんだと動き回っている間に少し崩れた様を呈する。

 「タウ様ってば、何話してるの〜ッ!」

 また女性たちに見つかるかもしれないのに。
 その前にちゃんとチョコを渡したいのに、とどうしてもやきもきしてしまうのは止められない。
 声は途切れ途切れで届いては来ない。
 ただ何か受け取るのが見えた後、タウはゆるりと笑みを作るとチェチェクに手を振って、
ようやくその場を離れた。


 きょろきょろと辺りを確認する様子のタウに、しばらく待ってチャガンが隠れていた木の陰から飛び出せば、
気付いたのかにこり、と微笑まれた。
 「チャガン、いいところに。」
 「?」
 りん、と声が響いて、先に話しかけてくるなんて珍しい、と首を傾けている間にタウは傍にやってきて、
それからすぐ、はっとして渋い顔をする。
 「・・ちょっと、逃げましょう。」
 言うと、これまた珍しく性急にチャガンの手を握ってタウは走り出す。

 全速力と言うわけではないのだがが、何事かと振り返れば、最初の地点にポツポツと女性の姿が見えた。
 その手には小さな箱やらが握られていて、タウとて当然気付いていただろうに、
 「タウ様、受け取らないんですか?」
 「彼女たちには申し訳ないですけど、あそこで騒ぎを起こすとチェチェクさんが困りますからね。」
タウに悪意はなく、ただ苦笑を浮かべた。




 どれほど走ったか、とりあえずタウに魅入ったままだったチャガンは覚えていないが、
気付けば喫茶店の程近くまで来ていて、ようやく2人は立ち止まった。
 息切れしたのを整えながらタウを見やれば、そちらも瞳を閉じてゆっくりと呼吸を繰り返して、
乱れた息をもどそうと努めている。
自然と繋いでいた手は離されて、それまで繋がっていた右手を名残惜しくじいっと見つめた後に、
左手に握り締めたままだった物を思い出した。

 「あ・・」
 「ん?」
 思わず声が出たために、タウが目を開けて覗き込んでくる。
 「どこか痛めたかい?」
 やや心配げに近づけられた顔に、思わずしどろもどろしてチャガンは首を振って、
その勢いのままチョコを突き出す。

 「あ・・あの、タウ様、これ・・っ」

 避けられた女性たちのことが少し頭を過ぎって、今年はもう受け取らないのだろうかとも不安になったが、
その想像を打ち破って、タウは包みを受け取るとことさら嬉しそうに笑顔を見せた。

 「ありがとう。」

 ちゅ、と軽く額に口付けられて、チャガンは照れて相手を直視できなくなった。
 別にそうされることは就寝前のおまじないがわりにでもしばしばあるのだが、
このタイミングが気恥ずかしくさせた。

 ただ、渡したラッピングがもうひどく崩れているのが渡してから気にかかって、
 「ラッピングが・・」
 「?」
 思わず漏れた言葉にタウは手の中のものを見てから優しい表情をして、
チャガンの頭に手を乗せる。
 「綺麗にできてますね。」
 「でも・・」
 「でも?」
 「崩れちゃってる・・」
 しゅん、としてチャガンはうつむくのに、タウは困ったように笑ってから、
ラッピングを解くと一つ、ハート型のチョコを口にする。

 「?」
 「美味しいですよ。」
 こくん、と飲みこんでから、タウはゆっくりと笑うと、残りを包みなおす。
 「あ・・」
 「これで、ラッピングは駄目になってしまいましたけど・・」
 ごめんね、と付け足してタウが言うのにチャガンは首を振って答えた。

 変わらず微笑をたたえたままのタウにチャガンが見惚れていると、
かさり、と髪に触れる感触がある。
 「タウ様?」
 疑問符を浮かべる頭の上でパチン、と音がしてタウは手を離す。
 「いつももらってばかりでは、不公平ですから。」
 「これ・・?」

 「ハッピーバレンタイン、チャガン。」

 言葉とともに、普段タウが祭具として使っている鏡が目の前に差し出される。


 紫みがかった青い蓮華の髪飾りが、ちょこんと可愛らしい様を呈していた。

end


<後書き>
 花飾りはチェチェクさんがつくってくれたって事で。
 いかん・・。説明入りのとか・・・(吐血



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