「同じドラゴンさんがいて嬉しいです!」




拾われて、ここにいてよい と、許可の下りた少年龍。

名前はその、同じドラゴンさんであるリューンにより何故かバアムと付けられたが
特に自分の元の名にこだわる気がなかったらしい。
「わーい、バアム〜」と自分の本当の名前をあっさり捨てて、新たな名前で生活をすることになった少年バアム。

名前を与えてくれた年上の少年リューンのことは、ドラゴンという共通点もあり「師匠」と呼び慕っていた。





魔法の勉強がんばります。




そう、彼が言ったのは やって来てすぐのこと。

それがどこかで食い違ったのは 四日後のこと。









 【そうだ、殴りに行こう。】










「えー、師匠お出かけですか〜!?」



「そ。しばらくマイマイってモンスター狩るために留守にするから。」



「ボクも連れてって〜・・・。」



「ばっか・・お前が来たら危ないだろ。」



「ぶー・・。」



「ファジーとラインも一緒に行くから・・ミミウの言うことちゃんと聞くんだぞ。」



「はーい。」




嫌だよ、お前らとは行きたくないよ。

全力で拒否するラインを、リューンとファジーが引っ張って家を出て10分。



「暇だな〜・・。」


ちらっとソファーを見やるバアム。
眠っている羊少女アリア。

魔法の使いどころとかそういうことを教えてもらおうと声をかけたが
さっきから起きる気配はない。

他に魔法を使うといえば、リィンとシオンの二名がいるのだが
バアムにとっては大先輩でピカピカ光っているので頼めそうにもなかった。
そもそも二人は今日、外出済みである。


「う゛ー・・・。」


一人で出かけてもいいのだけれど、なにぶん地理に自信がない。
帰ってこれないなどということは起こしたくない。

床の上に転がって、頭を悩ます。

その状態でしばらくしたころ、扉が開いて声がした。



「何してんの、バアム。」


「あ、ミミウさん!」


駄賃目当てで買い物に行っていたミミウの帰宅である。

せっかくだから、せめてお話ぐらいしたいと
今回の事の顛末(リューンが出かけてしまったというくだり)を話すバアム。

頷きながら聞いていたミミウは、話を聞き終わると言った。


「じゃあ、あたしが戦い方教えてあげる。」


「え?」


「だいじょーぶっ!リューンなんか話にならないぐらいあたしの戦闘センスはあるんだから!」


「師匠より!?」



胸を張って、任せなさいとミミウ。
期待に胸を膨らませる幼児。


家を飛び出していく二人をソファーから見送ったアリア(ちょびっと覚醒)は、一言。


「あれ?」

















夕食(肉じゃが)を作っていたシンラの絶叫。


「い・・・今なんと仰いました?」


「殴り魔!」


ミミウのシャドーボクシングを真似るバアム。

それが、ミミウとの冒険で得たものだという。



魔法なんか使えなくても生きていけると確信したと熱く語る瞳。

思いとどまってはくれないか、とシンラ。
バクとリィンも、少なからず賛同しかねると苦い顔。
普段、物事への興味が著しく欠落しているヒエンすら否定的な声。


しかし、思い立ってしまった少年は聞く耳を持たない。


ミミウに師匠と声をかけ、ヴィッツにも戦闘指南を請う。


彼が、アロー派だったのかリング派だったのかは過去のこと。
少年の目は光り輝いていた。



「まぁ・・方針転換ぐらいはよくあるけど・・・。
 ヒエンも元々ガンナーじゃないもんな?」


「・・・いや・・アレは・・。」


「それはともかく、殴り魔って懐かしすぎて涙出る。」


「それ、トラウマ・・・。」




「マスターさんたちの知り合いに殴り魔さんいるんですか!!?」



わくわくと期待を込めたまなざし。

是も非もなく、シンラが言う。


「バアム、まだ小さいんだし魔法のほうがいいと思うよ?」


「大丈夫です!ミミウ師匠が太鼓判押してくれました!」



((((どういう・・・・。))))



やたら楽しそうに騒ぐバアムと、新たに師匠に格付けされたミミウ。

他人の成長なんてどうでもいいのだが
しかし、なんともいえない表情でバアムを見る四名。




「・・思い出話はやめよう。
 事情はともかく、これ以上はオレたちの精神にプラス作用はない。」


「だな。さっさと夕食にして忘れるほうが賢明だろ。」


中断していた夕飯の準備を再開するシンラとバク。
日々の酷使により故障した炊飯器の解体を始めるヒエン。
バアムを、最後に一度説得すると意気込み歩み寄っていくリィン。



「あの人たちは・・・元気?」


「・・・・聞かれても・・。」


「・・・?」


「ほら、夕食の準備。」






「バアムー、お前さ〜。殴りはやめとけって。」





「いやだー!」


あ、完全拒否だ!


ガクリと膝をついてわざとらしく落ち込むしぐさ。

そういえば、とミミウが立ち上がって言う。



「まだリューンに言ってないんだけど、アイツ怒るかな〜。」


「リューン師匠は心広いから大丈夫ですよ!」


「広い・・・アイツほど(食欲に対する)心の狭いヤツ見たことなかったよ。」



「がーん。」








その数日後。






「殴り魔!?」

「おぉ!殴りはいいよな!」

「効率悪っ。」



帰ってきたリューン、ファジー、ラインに事情説明。

拳を振り回すバアム。



「効率の問題じゃないんです!これは青春そのものだと思うんです!!」




「まぁ、好きにすればいいけどな。」(リューン)


「殴りは心が熱くなるよな!青春だもんなぁ!」(ファジー)


「そういう問題か・・・?」(ライン)




その少年(というより幼児)が、師匠を二人持ったのは
このような事情からであった。









end



<後書き>
ステ振りとか、その手の観念は出来るだけ無視でお願いします。
基本的にはベースレベルぐらいしか気にしない方針で。






殴りは男の華だろう