【ねぇ受け止めて僕らの愛を】













家計簿を付け終わり、伸び。


「さてと・・・。」


今日はいい天気だから、ブルーミングコーラのペンギンに会いに行こう。そんなことを思い立つ。

誰もいない室内の戸締りをして、あの海へ。






白い砂浜、青い海。

足取りも軽く青ペンたちのいる地域へ向かう。


そんな折、見知った声が聞こえてきて足を止めた。

「?」

木陰でひそひそと話し合うギルメン2名を含む3人の人影。

何かしら悪巧みでもしているのかと勘繰り、そっと傍へより耳を澄ます。



「いや、やっぱりダメだって・・。仕事の邪魔になるから・・。」

「バカライン!そんなこと言ってるから、いつまでたっても憧れの先輩が憧れの先輩なのよ!」

「そうさ、始めの一歩が大事だとオレも思うぜ!」

「どんな一歩だよ・・迷惑になるって。」

「だからお前はバカなんだよライン!出会い頭にはソフトクリームをぶつけて
クリーニング出しちゃうついでに住所まで聞いちゃえ的な乙女心を理解できないの!?」

「できねぇって。そもそもそれとこれとは絶対関係ないから。」

「バカかライン!絶対なんて言葉で済む恋心じゃないだろ!?」

「混乱に乗じて何度もバカって言うのヤメロ。」


ぎゃーぎゃー騒ぐギルメンのミミウとファジー。
ついでにラインと呼ばれる少年。


物陰からこっそり覗いていたシンラは、危険なことをしようとしているわけじゃないならいいかと一安心。
でもせっかくなので、見知らぬ少年をギルドに誘おうと近づく。

営業スマイルを浮かべ、いざ一言。


「や 「ぎゃぁあああぁああぁぁ!!!!」


かけようとした言葉がファジーの叫びに飲み込まれ虚空に漂う。
倒れこんだファジーと殴ったらしいライン。

何してんの喧嘩はダメだよと心の中で呟き、リトライしようとした瞬間
ミミウが、シンラの存在に気付いた。


「あっれ〜?こんなとこで何してんの?」


青空に白い砂浜。多分常夏の地。

ミミウのセリフによって、ファジーとラインもシンラを認識。
どやどやと3人、シンラの前に集合する。

集まったところで、まずはミミウが挙手して言った。


「はい!またペンギン観光ですか?」

まぁそんなところだよと苦い笑いで頷くと、この中で唯一ギルメンではない少年ラインが首をひねり質問。


「何のために?」


「え・・・うーん・・。」

好きだからという答えは安易でつまらないようにも思い、少し考えてみる。
それが間違いだった。

ラインの横にいるミミウがラインを小突いてささやき。


「バカライン!人には聞いちゃいけない過去があるの!」(小声)

「だから勢いでバカってつけるのヤメロ。」(小声)

「バカだなライン。ペンギン観光に行く人の精神状態は ストレスが溜まってる コレだ。」(小声)

「オマエラだろ。絶対オマエラが余計なストレスの原因だろ。」(小声)

「ハゲるよ、あんた細かいこと気にしたらハゲるんだからね。」(中声)

「ハゲの原因は遺伝だと信じてる。」(中声)

「円形脱毛の存在を否定するな。円形にハゲる遺伝なんてすげぇ嫌だろ。哀れすぎる。」(中声)



「いや、あの・・話が明後日向いてるから。」(普通声)


会話のゴールを見失い暴走する言葉を遮り、自分に注目させてみるシンラ。

3人は喋るのをやめてシンラに向き直る。
次に喋ったのがファジー。


「で、マスターがペンギン観光に行くのってペンギン好きだからだよな?」


これ以上会話の流れを砕かれては困るとさっさと頷く。
そして、ファジーたちの友達らしい少年を見止めて はっと思い出した。


「そういえば、こんにちは初めまして。ギルド“今、ペンギンが熱い!”のマスターシンラです。」


「あ、どうも。ラインです。」


リュックサックには青ペンギン。勧誘がいつでもできる状態。
微笑みの貴公子張りにうさんくさい笑顔を浮かべ、シンラは言った。


「うちのギルドに入らない?」


うーんと少し唸り、ラインは言葉を紡ぐ。


「オレ、師匠がいてさー。その人に従ってるから・・なんつーか、勝手に入るわけには。」


「マジで!?ギルド加入済み?」


「ちゃうちゃうマスター。半永久24時間耐久チキチキパーティー。」


「へー・・。」


ミミウの言った言葉の意味は分からないけど、ここはさらっと流す。

本人曰くのダメな理由から察してしつこい勧誘は意味がないだろうし、
もう一度さっきみたいなテンションの会話になったら止めることが出来るか怪しい。

3人の先ほどの会話の内容から考えるに、何かやりたいこともある様子。
じゃあ自分はそろそろ当初の目的でも果たすからと別れを告げる。


その予定だった。






「何でオレまで付き合うことに・・・。」

草むらから身を乗り出し眺めるのは、コーラルビーチの人気者ディーン。
相も変わらず女性の黄色い声援を受けながら仕事に励む爽やか青年。

そのディーンに熱視線を送るミミウ、ファジー、ライン。
話によるとファンらしい。

で、シンラが最初に見かけたときの会話は、ディーンと仲良くなりたい3人の作戦会議であったと。


「むー・・、やっぱりライバル多すぎ。」

話しかけようにも、自分たちより脈有りな女たちが群れていて入る隙間は確認できない。
しかしどうしてもディーンと接触を試みたい3人。

話すだけでもいいなら水泳帽のクエストをやれば、とシンラが聞いてみたところ3人揃って終了済み。
だからこそどうやって会話を切り出せばいいのか迷ってるのだというのだからしょうがない。

ストレートに話しかければいいと思うんだけれどなぁと心の中でシンラはさておき、真剣に悩む3人組。

不意に、ファジーが言った。


「だから、ラインが溺れるしかないだろ。」


「よね。やっぱソフトクリームを投げつける気合いが必要!」


拳を作り、ガッツと意気込むミミウ。
もうノリノリ。

ラインだけが常識人なのか、大きく首を振り抵抗。


「2人ともアホか!?そんなことしてディーンさんが助け損なったらどうすッ バキャァアッ


「バカライン!ディーンさんの力がアンタ一人助けられないとでも思ってるの!?」


「殴るか!?今そこで殴るか!?もしもの時死んじゃうオレの身にもなれって!」


「バカかライン!そのためにオレたちのギルドのマスターがここにいるんだろ!」



「「・・・・・・・・・・・・え?」」



顔を引きつらせたラインとシンラを無視して、「さぁ!」とファジーからさしだされる水着。

もちろんラインに。





女物。





「ぎゃぁあああ!!!コイツら狂ってる!!狂ってる!!!!」


「ごめんライン。これしか発掘できなかった!」


「だれだよ水着を気軽に砂浜に置いて行くのは!」(orz)


「しかもビキニの上だけだけど、辛抱して!」


「オマエ、オレが嫌いなんだろ。」


頭を抱え込み落ち込むラインを、励ますことなく作戦を決行すべしと盛り上がる2人。
1人悲鳴を上げながら砂浜にめり込み、ほんのしばらくしてラインは立ち上がった。

手には救命浮き輪。


「逝って来ます。」


3人(というか2人)のテンションに圧倒され、だんまりをしていたシンラは苦笑い。


靴を脱ぎ、軽く準備体操。ゴーグルをかけるといざ海へダッシュ。
蹴り上げられた砂が目に飛び込み騒ぐファジー。

そして、走り出したラインを猛追して殴るミミウ。



ドシャァアアァアァァァッ




「何で殴るんだよ!?お前が行けって言ったんだろ!?」


殴られた勢いでずっこけたラインは、怒るミミウを見上げて抗議。

意にも介さずミミウは言い切った。


「だからラインはバカって言うんでしょ!だぁーれがっ浮き輪を持って溺れるのよ!!」


没収!と言うが早いかラインの傍に転がっていた浮き輪を取り上げる。

もう既に成す術なし。



ラインは、なんだかわけの分からない暴言を繰り返しながら海に突入するのであった。














その後のことはもう思い出したくない。

深いところへと向かっていたラインは、途中で砂に蹴躓いて本気で溺れ
助けようとディーンが走り出したのに(予定通りだったのに)めっちゃ焦ったファジーとミミウが自ら助け。

完全に気を失ったラインは、遅れて駆けつけた憧れのディーンに
人工呼吸をしてもらえ(しかし本人意識不明 )
しかしながらジェラシーを感じたミミウとファジーにあとから袋叩きに合い。



「シンラさん・・なんか、何があったんですかね。」


「ごめんな・・うちのギルメンが・・・。」


「・・・毎日ご苦労様です。」



夕陽を眺め、三角座りで男2人。

その前を、キラキラとした汗を輝かせながら走るディーンとミミウとファジー。
砂浜を物ともせずにさっきから云十分ずっとあの調子である。


ぼんやりと、アホなミミウとファジーを捨て置けない自分の親心ぶりに落ち込むシンラ。

バカは自分じゃなくてやっぱりあいつらだったと心底思いつつ
ディーンから渡されたタオルに身を包み、浮き輪に座るライン。


終わりのない幸福感に包まれ、憧れのディーンさんと走るミミウとファジー。


ディーンはいい人なのかアホなのか天然なのか、嫌味のない爽やかな笑顔。




「あ、」


隣にいるラインにも聞こえないような小さな声で、最後にシンラが呟いた。





「聖地(ペンギンのいる場所)に行く予定が潰れた・・。」









end

<後書き>
いじめじゃない。









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