【あぁ、午前3時のショッピング】











朝もやの中、とぼとぼと歩く一人の少女。

珍しく朝早くに目が覚めたものだから散歩に出てみて数十分。


眠たくて、眠たくて、本当はここですぐさま眠りたいが
お世話になっているギルドのマスターに注意されているのでそれだけは我慢して来た道を帰る。

道すがら、こんな時間からやってる行商を見やれば
見たことも聞いたこともないアイテムのパレード。

凄いなぁと思い、ほんの少し覚醒して商品を眺める。



そんな折、ふと、あるものが目に入った。



「わぁ・・・。」















木々のざわめき朝日の射す窓。


今日も爽やかな朝が来たと嬉々としてリビングへ向かう奇天烈ギルマスシンラ。

ガチャリと扉を開ける。
既に起きていたカヤが、ちらっと視線をよこし「おはよう」と一言。

机の上には一人分の朝ごはん。

自分とリューンの分の用意がないのは日常だとして、
はて最近メンバーになった羊はどうしたんだろうかと尋ねる。

そうしたところ、少しだけ間を置いてカヤが答えた。


「さぁ、探したけど・・出かけてるみたいよ。」


「・・・へぇ?」


こんな時間に出かける芸当が出来る子だったのかと、いらぬ感心。

この後、自分に災厄が降りかかることが予感できない平和な脳みそ。







午後5時。
何だかんだと浪費されるギルド資金の足しにと、アイテムを売り飛ばして金に換え帰宅したシンラ。

軽やかな足取りで玄関を過ぎ、リビングへ入る。


「ただい―――! バギャッ ぐほっ」


正面からの容赦ないパンチ。
モロに食らって倒れこむ。


「なして・・。」


そろりと、殴りかかってきた少年を見上げれば大そうお怒りの表情。

彼の意にそぐわないようなことでもやっただろうかと今日の自分の行いを思い出してみるものの
普段とそう変わりがなかったので疑問符だけが頭の中に増える。

握り締めた拳を服で軽くこする仕草が、キミ殴り魔だっけと聞きたくなるぐらい手馴れたもの。

ひとしきりシンラを睨み、少し気が済んだらしいリューンは言った。



「人のベッドの備品を、勝手に入れ替えてどうするつもりだ。」





「は?」




ガスッ

「うぉうっ!」(避けた)



「自分でやったことを忘れるってのが、一番腹立つんだ。」



「・・・・そう言われてもな・・。」



一先ず落ち着けとなだめ、件のベッドを拝むこととする。

あの異様な価格がしたベッド。よく考えてみると、近頃のギルド運営が赤字になってる大きな要因。
そんなことを思いながら、男部屋の扉を開く。

装飾とか色んなことが面倒で投げていたせいか、いまだにベッド以外目立つものがない和室。
遠慮なく置かれたベッドの支柱のおかげで、すぐに痛みそうな畳。

そして、ベッドの布団・枕はリューンの趣味(もしくは適当)で基本的に全て白。

そのはずだった。



数回瞬きをして、自分の眼前にある光景を現実かどうか確かめるシンラ。
到底信じがたい。

背後から冷たい視線を送ってくるリューンの行動も、ある意味真っ当に思える。

白で統一されていたはずの布団と枕は全てペンギン柄のシーツに包まれ、
ところどころにペンギンのぬいぐるみまで置かれている。
極め付けには、天蓋部分も全てペンギン柄に変えられているという徹底ぶり。
ファンシーなイタズラというか、ファンキーなジョークというか。

とりあえず、自分ならやりかねないだろうが今日のところは記憶にない。


(どう反応すればいいんだ・・・。)


茫然としているシンラに向かって、リューンは言う。


「思い出したか、自分の悪行。」


「・・・いやいや、お前な。」


ついさっきまで出かけていた自分には全く何も分からない。
さーどうしようかなーと頭をひねる。
そんなことをしてる間に、リューンは「直しておけよ」と呟いて退散。

軽く溜息を付いてベッドを眺める。
シーツはすぐに直せるとして、一体天蓋はどうすれば直せるんだろうなぁとか
そもそも誰がこういう事態を招いたんだろうかとか。


「オレが出かけた時点でカヤとアリアは出かけてたろ・・リューンは寝てたし、その時点では無理だよな。」

まさか本人がやったとは思えない。

「カヤはまだ帰ってないみたいだし・・と、なると・・。」

粗方推測してみてから、ギルメンで唯一犯行が可能な人間を特定。
イタズラをする人間には見えないのだけれど。

リビングには姿が見えないので女部屋に向かう。
軽くノックをして、10秒待って、返事がないのを確認。少し背徳感に襲われながらで扉を開く。


「アリア〜・・?」

付けっぱなしの部屋の電気と、相反して眠る少女。

見覚えのある布に埋もれる姿に多少の眩暈。


「アリア、もう夕食の時間だから起きろ。」


ゆさゆさと揺さぶり、幸せそうに眠るギルメンを起こす。
しばらくすると、小さくうめいて瞳が開かれた。

「・・? おはようございます?」

「おはよう。よく眠れた?」

「少し・・。」

よっこらしょと呟きながら、埋もれていた布から這い出るアリア。
自分が布団で寝ていると思っていたらしく、びっくりーとぼやき。

ほんと、びっくりだよと心の中でツッコミを入れてみるシンラ。

本題に入る。


「アリア・・もしかしてとは思うけど、リューンのベッドのシーツとカーテン代えた?」


「ぬいぐるみ買ったら、くれたの。」


「・・・・・凄いサービスだね。」


「うん。設置もしてくれたの。」


「タダで?」


「そう。」


「・・・・ふーん。」


あれだけペンギン狂なことをする人間が自分以外にいるなんてな。
一人だけ心当りがなくもないけど、違いますようにと祈りを込める。

ひとしきり願掛けが終わったあと、眠そうなアリアを引っ張ってリビングへ。
リビングでは空腹で死ぬと床に倒れこみ騒ぐリューン。
そこまで言うなら先に食べておけばいい、つーかまだ夕食の用意ができてない上午後5時過ぎ。

深く息を吐いて、夕食の準備を始める。
こないだ弁当屋の弁当で夕食を済まそうとしたら、カヤとリューンに
栄養がどうのとか着色料がとか家庭での手作りの必要性を永遠と説かれたので
めっきり自家製になってしまった夕食。何故か昼食はカップ麺でも許される。

ジャガイモの皮をむきながら、天蓋の直し方を思案。
あのままでもいいけどと思う自分に苦笑い。







end

<後書き>
ベッドネタが多い件。








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