【ここにはただ、主をなくした不憫な紙切れ】










『今、ペンギンが熱い!』などというチャラいネーミングのギルドに入って三日。

ギルドハウスは何故かだだっ広い玄関に、信楽狸の置物。しかも意味不明な巨大絵画。
玄関から室内に入れば有無を言わせずリビングダイニング。
そこを抜ければ廊下があり、即行で二つの何もない部屋の扉が控える。
何でも向かって右が女部屋で、左が男部屋だということなので
オレは左の部屋をギルドマスターの狸シンラと共有。
しかも室内は一面畳で布団が壁際に山積み。シンラ、オマエは実家のばあちゃんか。
あとはせいぜい、廊下を右に行き、さらに右に曲がった奥まったところに水周りの物が用意されているだけ。

とにかく、こともあろうこの貴族であるオレが、
ぶっちゃけ行き当たりばったりな設計の住処に寝泊りする日が来るとは思わなかった。

いや、ほんと。押入れぐらい用意してもよかったはずだ。
じゃなきゃ、シーズンオフのこいのぼりやお雛様をどこに片付けるか聞きたい。

が、過ぎたことをあれやこれや言ってもしょうがない。
まずは自分にとって快適な空間にする努力が必要だ。

幸いにもシンラとカヤさんは金持ちらしく食料に事欠くことはない。
アイテムもなんだかんだと物置にしまっているようだし、
オレの見るところ、あの2人に足りないのは住環境を整える能力程度。致命的だがこの際目はつぶろう。

だからこそ、貴族出身のオレが手本を見せるべきなんだ。




--そんなわけで、リューンin家具屋さん--




「思ったとおり、色々と置いてあるな。」

ふぅむ、と頷きながらベッドを見渡す。
安っぽいスチール製のものから、高価なウォーターベッドまで様々な種類のベッドが並ぶ一角。

ある程度見、自分が探しているものがないと分かったところで
リューンは近くにいた店員を呼び寄せ言った。


「ベッドの四方に、カーテンがぶらさがっているやつは置いているか?」


店員は少し頭をひねった後、あぁ天蓋付ならと商品カタログを開き、指し示した。
まさにリューンが追い求めていた姿をしたベッド。

いくつかの種類を見て、これぐらいが理想のサイズだと即座に注文。
軽く大人3人は眠れそうなビッグサイズ。羽枕も大量に購入。

もちろん領収書にギルド名を書くことも忘れなかった。






--翌日--


注文したベッドは今日届くということだったな。
あの、畳に布団を引くという和風な寝床とも今日でお別れだ。
そう思うと少し寂しいかも知れないしそうでもないかもしれない。
所詮ここに来て一週間も経っていないオレに感慨深いものはナイ(言い切った)

買い物に行くけど一緒に行くかと聞いてきたシンラに、別の用があると答えて室内で待つこと40分。
そろそろ同じ場所で待つのも飽きたので、玄関の前で待つとする。

その行動が功を奏したのか、業者の人間がベッドを持ってのこのこと現れた。
運び込む部屋を伝えると、さっさと入って行って天井部分の組み上げとかやってくれる仕事人。
手伝う気も起きないので、ここは一先ず落ち着いてチョコボールを食べる。

(あ、そういえば来客者にはお茶を入れろと言われた気がする・・。)
と思い、お湯を沸かそうとしたところで仕事人が言った。


「じゃあ、作業の方終わったんで帰らしてもらいますね〜。」


「え、早いな・・。」


こっちの反応も待たず、にこやかに帰っていく業者。凄まじい営業スマイルだ。

とりあえず、沸かし始めたお湯はインスタントお汁粉に使用するとして。


「やっぱり、寝床はベッドに限るな。」


畳に天蓋付きベッドが合うかどうかなんて無視だ無視。
寝心地最優先。


フッ・・・勝ったな(誰に)









この時、シンラが天蓋付きベッドに気付くまであと10時間。



end

<後書き>
紙切れ=領収書。
天蓋付きベッドに憧れる会。










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