注意:なんか、ぐだぐだですよ。




 その日はたまたま美味しそうなバウムクーヘンを見つけて、
たまたまそれを買ってみようかなどという気を起こして――――――


 【結局のところ尊敬なんて単純なもの】


 「あれ?リューンはいないのか?」

 食べ物の気配にすぐに気付いて飛びついてくるはずの人物の不在に
俺は一応その場にいた面子にたずねてみる。
 「狩りに行くって朝出かけたきりだよ〜。」
 「そうそう。」
 ファジーとミミウが答えてくれて、俺はそうか、とだけ返しておいた。


 うんうん。食事を配るにはリューンがいないといるでは大違いだ。


 俺はそう思いながら台所に向かい、ちゃんとパン切りナイフを持ち出して均等に分けようと試みる。
 今ここには自分とファジーとミミウと眠っているがアリアの4人。
 4つに切り分ければ簡単だな・・・と、考えたのだけれど。

 「(なんか、アレだよな・・・。食べ物の恨みは怖いって言うし。)」

 うんうん。そうだよね、俺。
 なんだか、最近わけのわからない恐怖心ばっかりだね、俺。


 そんなわけで、カヤの分も含め、6つ切りを断行する俺。
 いや、カヤは別に食べ物への執着はないだろうけど、ここでリューンにだけ残して
万一カヤが帰ってきたときにその分だけとっていなかったなんてことになったら、
どうなるかわからない。
 幸い、買ってきたバウムクーヘンはそれなりのサイズである。




 珍しくリューン以外の子どもたちにも行き渡った食べ物(重要なのは菓子類限定でないこと)に
普段文句があるわけではないけれど、それでもファジーとミミウは嬉しそうにしてくれていた。
 アリアは無理矢理起こしてとりあえず食べさせた。
 感想がなかったのは彼女の食に対する思いがあまりにも薄いせいだろうか・・・。


 そんな午後のティータイム。




 そして、その日珍しかったことといえば、あのリューンが、
とうとう“食の伝道師”とかわけのわからないことを名乗ったあのリューンが、
夕飯までにもどってこなかったことだろう。

 これは前にも後にもほとんどない事態だった。
 とくに、冷蔵庫の食材が消えないままという条件下においては。


 そのまま夜になっても帰らないので心配して、他の3人が寝入っても
(ちなみにアリアはティータイムの後夕飯時に一瞬起きただけだが)、
待ってしまった俺の親心はもう神だろう。

 だってもうとっくに戌の刻。
 リビングの椅子に座ってテーブルに乗った夕食を見つめてひたすら待っている姿は
まさに反抗期の子どもに意見したら衝突して出て行かれてしまったことに悩む親父そのもの。

 ・・・いやいや、何を言っているんだ、俺。
 違うだろう、俺。


 とりあえず、なんだ。心配だ。
 アリアがいなくなってどこぞで寝てしまっているのではないだろうかと
心配するのと同じに心配だ。
 いや、アリアの方が正直心配か・・・。
 なんと言ってもその辺で寝てるんだもんな・・・。

 いやいや、そうじゃなくて!

 はじめて発見したときのように無謀に魚をとりに水に飛び込んでいなければいいが・・・。



 その時、タイミングを見計らったように玄関が開く音が聞こえて、
そのまま何かが床にぶつかる音が聞こえた。

 「リューン・・?!」

 まさか・・、とは思ったのだけれど、玄関に急ぐ。


 無茶なことをするタイプだとは思っていたけれど・・・。
 とくに暴飲暴食が目立つとは思っていたけれど・・・。


 「リューン!!!」

 夜なのに騒がしいとも思ったけれど、駆けつけたのに、

 「なんだ・・・?」

 玄関に座り込んでいたリューンは普通に聞き返してきた。


 ・・・・・・。
 そうか、脱力感ってこういうことなんだな・・・。
 心配して損したってこういうことなんだな・・・。


 そんな俺を尻目に服の裾の埃を払ってリューンは立ち上がる。
 「腹減った。」
 と、いう言葉通り腹の虫が鳴く。

 もしかしてあれか?
 お腹が減って倒れたというどこかにありそうな状況か、コノヤロウ。


 それでも、やはり何も食べていないことは確かのようで、疲れている様子もうかがえた。
 「夕飯残ってるか?」
 残っていなかったら殺す、と言いたげな目であったが、
今夜は帰ってきてくれただけで安堵した自分がいたから苦笑だけ漏らしてリビングにもどる。



 リューンは椅子に座って興ずる料理をすべて食いつくし、
気のせいかその量は今日一日食べていなかった分だけではなく、ゆうに3日分はあっただろう。
 ああ、食費が・・・と思うのは何の証なのだろう・・・。
 しかも、リューンは相変わらず自分で動こうとはせず、俺だって疲れているのに一人で用意する。

 ギルドの母だな。俺って。

 と、思ったら、少し涙が出た。
 もう、なんで涙が出ているかなんて、悲しすぎて考えたくなかった。



 それから、いつも通りだが礼も言わずにリューンは風呂に行ってしまって、食器を片付けて、
明日の分の食材を確信しようと冷蔵庫を開いて。

 「あ・・・」

 残しておいたバウムクーヘンが2つ。
 食卓に並べ忘れたことを思い出す。

 いるだろうか?
 それとも、さすがに食物よりも睡眠を取るだろうか?


 せめて聞いておいた方がいいだろうと冷蔵庫から取り出して、振り返ったら、
リューンがちょうどリビングに帰ってきた。

 「あ、リューン。これ食べるか?」
 「あ?」
 「いや、疲れてるんだったら明日でも・・・」

 いい、と言おうとした俺の目の前で珍しく、いや、おそらくはじめて、
食物を前にして固まっているリューンを見た。


 もしかして、嫌いなのか?
 そうか・・・、なんでも食べるから気にしたことがなかったな。


 と、思っていたのだけれど、気付いたときには手にしていた皿を奪われて、
別に意味があったわけでなく皿を追いかけた手から逃れるように
リューンが綺麗にバックステップを決める。

 「食べて、いいんだろう?」

 聞きながら、間合いを取ってくるリューン。
 どうして食が絡んだときだけそんな動きがいいんだ?
 そう聞くことを止めたのはいつだったか・・・。

 とりあえず、頷いてやる。


 もう日付変更線も近いそんな時間。
 寝に行くタイミングを失った俺、というより、皿洗いがまだ目の前に残っているので待つしかない俺、
の前で、カヤの分も合わせてリューンは頬張っている。
 いつものように飲みこむ形ではない。

 「もしかして、好物か?」
 「は?」
 「それ。」
 バウムクーヘンを指して言うと、ああ、とリューンが頷く。
 「悪いか?」
 「いや、味なんてわかってないとおもっ・・・ふごっ!!」

 失言だったのか杖で横殴りされた。

 「ふん。凡人にはこの俺の味覚のすばらしさがわからないだけだ。」

 いや、わかりたくもないですけどね。
 何、その自信満々な態度は・・・。
 さすがのシンラ君もちょっと声に出して突っ込みたくなるぞ!

 と、思っていたのに、


 「でも、これを見つけてくるなんて、結構見直したぞ。」

 と、邪気のない笑顔(表面だけであって台詞には問題を覚えたが)を見たら、
なんだか、どうでもよくなってきた。


 ファジーやミミウも喜ぶし、また買ってきてやろうかな、とか思うくらい。





 ちなみに、食後のリューンにバウムクーヘンについてせつせつと語られ、
あげく、真夜中にも関わらず買いに行かされそうになったのは、また別の話。

end


後書き:
 だらだらと続いてしまいましたゴメンナサイ;
 書いている最中に哀れなシンラ君が愛しくなってくるぐらいだらだらと書いてました。
 シンラ君は今ペンの母ですよね!ていさん!!





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