【情熱と冷静の間-あるいはただの食欲-】


 「お腹すいた・・・」

 ぼやいて、ようやくリューンは起き上がった。

 カバリア島にやってきてどれくらいになっただろうか。
 最初のうちは持ってきた金品や物資で生計を立てていたリューンだったが、
それもそろそろ限界だった。
 いや、限界そのものと言えるだろう。
 何せここ3日実質何も食べていないのだ。

 金持ち、土地持ち、お貴族様。
 そんなところに属する家庭で育ったリューンには本人がたとえそうは認めないとしても、
生活していく上での技術なんてものは乏しかった。浪費する性質なのだ。
 お洒落が好きというわけではなかったけれど身だしなみには気を使っていたはずなのに、
癖のない長髪はともかく、転んだりモンスターと戦闘したりで汚れた服はそのまま。
 何より、生活苦に迫られればリューンの中でもさすがに食に対する、
つまるところ生命持続の欲求だけは芽を出し、育ってきて、
他のすべてを捨てても食事を摂る、ぐらいにはなっているのだ。

 だから、彼がもしもう少しでも違った境遇で育っていたのならば、
後に彼が身をおくことになるギルドのマスターも苦労が減じられたかもしれない。


 ともかく、リューンは寝転がっていた日陰から離れてゆるゆると歩き出した。
 ついた砂がパラパラと落ちることにも無頓着。
 金がない以上働くなりなんなりしなければならないのだが、
ここのところ空腹のためか魔法の切れはすこぶる悪く、悪循環を起こしはじめている。
 とにかく口に含めるもの、と探してみるのだが、コーラルビーチと呼ばれるこの地域は
存外口に出来る果実だとかがない。


 「お腹すいた・・・」
 またぼやいて、リューンは快晴の空にぎらつく太陽を見つめた。
 空っぽのお腹がぐぅぐぅ、と鳴り続けて耳につく。
 嘲笑うように近くで魚が跳ねた。

 ムカついて、悪態をつこうと思って、そこではっと気付く。
 「(魚だ・・・)」
 イコール食べ物と繋げて、リューンは浅い川を覗き込んだ。
 さらさらと砂が流れていくのに混じって日の光を反射しながら魚が渡っていく。
 手を伸ばせばすいと避けられるばかり。
 さらに追うが、水の中の水生生物に勝てるはずもない。

 「いい度胸だ・・・」
 それでも随分久しぶりに笑って、リューンは杖をしっかりと握りなおした。
 モンスターを狩るのと同じ要領だ。大丈夫。
 そう言い聞かせて自然魚影を目で追う。
 そんなリューンの姿が川沿いを走り出した。



 それはあるいはただの食欲。
 それがまもなく出会いを生むのはあるいは運命と言えるかもしれない――――――

end


<後書き>
 貴族がこんなにワイルドでいいのかな・・・。
 そんな疑問がわいた瞬間。











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