砂上に散る
















 からからの今日も晴れ。


 ポール戦の末、画家アウデに引き渡される食料を、
最後に渋ったリューンの声はまだ砂に埋まっているかも知れない、
そんな間もなくの事。



 画家の次なる願いはバケツ一杯の水。



 なんだそんなことは簡単だと思ったラインの考えは、何かの間違いだったのだろうか。





 「こぼしちゃった。」



 てへ、と笑いながら言うミミウは、これが何度目のことか覚えているのだろうか。



 バケツに汲んだ水をこぼしたどころか、すべて辺りにぶちまけるという、
そのいっそ快挙とも言える失敗の回数を。



 最初、汲んでもらったそばからこぼしていたことなど、今となっては可愛らしい。




 何度も振り回さないように注意して、ようやっと辿りついた画家アウデの前で、
ついに受け渡されることのなかった井戸水は、乾いた音をたてて砂に吸い込まれていく。

 寡黙な画家は突っ込み一つあたえてはくれず、キャンパスに視線をもどしてそれっきり。




 「もう一回か・・」


 溜息とともに、いっそクールなリューンの言葉に、さすがに疲れの色が見える。


 「ミミウ、もういいだろう?今度はオレが運ぶから・・!」


 懇願の色さえ浮かべて吐き出されたラインの言葉が少女に伝わる前に、


 「オレもやりてー!」


 画家のバケツはファジー少年の手に渡る。





 やりたいとは、砂の上に水をぶちまけたい、という事じゃないと祈りたい。





 「ちょ・・」
 「だってー、ラインはアリアを運んでくれないとー。」


 止めようとしたら、ミミウの言葉によって背負った少女のことを思い出さされた。


 途中で寝入ってしまって、皆放置するわけにもいかず、
おまえには所持力があるだろうとラインに押し付けられた眠り姫。




 じゃあ、役割を代わってくれと頼むのに、その言葉に気付く前に、
すでにファジーとミミウは地平線とお友だち。


 そろそろその2人に面倒くさがっているのに、バケツを持つことをもっと面倒くさがっているリューンは、
やれやれと言いながら歩き出す。


 ファジーが運ぶことに一分の望みでもあると言うのか。


 少なくともない、と言い切るラインはそろそろ肩が痛くなってきた。









 そして、一分もなかった希望が砕かれるのは、まもなくのこと。








 響き渡るラインの嘆きは、冷静な少年には珍しく、
元気付ける元気少年と少女に文句を言う力さえ失ったらしい。


 ようやく已然面倒くさがりながらも動き出してくれたリューンが、水を届けたときには日が暮れて、
暗いから嫌とかぬかした画家に、井戸水は再び砂の上に消えていった。










 まだまだ続く物語の、これは序章に過ぎないと、この時誰が予想したのか――――――








To be continued