色あせた空

















ある晴れの日。
部屋の片付けをしていたシンラが言った。


「あれ?ここに置いてあった100ゲルダクーポンどこ行った?」


自分で散らかした工作道具を隣でかき集めていたライン。
少し考えてから一言。


「おとついまではありましたよ。」


「ふむ・・・。」

おかしいな、と首をひねるシンラ。
ラインも行動を真似て首をひねる。


「何かに使う予定でもあったんですか?」


「ん・・・いや、ヒエンに信楽狸の代金を更に要求したら渡されたんで
 こうなったら意地でコレクションしようかと思ってたんだけどな・・・。」


そうなんですか、とか軽く相槌を打って片付けの手を休めないよう気をつける。
目標は今日の昼までにリビングを綺麗にする である。

因みにシンラの最近の目標は、男の比率が上がったこのギルド内をなんとかする である。





昼。


こないだ仲間になった3人組みは昼食時も帰ってくることはなく
カヤとイナリも相変わらず弁当持参で出かけている。

シンラと愉快な子どもたちだけの、いつもどおりのお昼ご飯。


シンラは食事を終えると、用事があるからと言って早々に外出。


消えた100ゲルダクーポンの謎。
そんなもん頭の隅っこにもなくなっていた頃合。

家事を一切手伝わないメンツを尻目にラインが皿を洗っていたとき
その謎は綺麗に解けた。




「あれ?アリアそれなに〜?」


テレビのチャンネルを回して、暇そうにしていたミミウが
アリアの手元に置かれた何かを指差して言った。

ミミウのセリフに、ファジーとリューンも視線を動かす。
ラインは頭の中で愚痴を繰り返しているので聞こえていない。


うーん、と少しうなってからアリアは答えた。



「お店してるおサルさんが売ってくれたの。」



でもこれ何に使うのか分からない、とサルに売られたらしいネックレスを机に置くアリア。
ラインを除く居合わせたみんなで覗き込む。


最初にファジー。

「しなびてねぇ?コレ。」

ファジーを冷めた目で眺めつつリューン。

「これは色あせてるって言うんだろ。」

リューンの発言に瞳を輝かせながらミミウ。

「え、年代物?高く売れる?」

腕を組んで、少し悩んでからまたリューン。

「オレは買わないと思うけど・・アリアいくらで買ったんだよ。」

自分で買ったものを今さらまじまじと見ていたアリア。

「100ゲルダクーポン5枚で売ってくれたの。」

ファジー。

「いくらだ、ソレ。5000ゲルダ?」

リューン。

「脳みそ空っぽかお前。1000ゲルダだ。」

ミミウツッコミ。

「ちげーよ、500ゲルダだよバカ共。」



ポン(手を打った音)




「安いな。」

「うん。」


そうかそうかと納得しながら頷く一同。

ちょうどの頃合で、皿洗いを終えてリビングに戻ってきたラインは
みんなのその行動は何事なのかとたずねた。






その返答を聞いて脱力。





「アリア・・・・それ、シンラさんの100ゲルダクーポン・・・・。」


「あれ?」


隣に座ったメリーと一緒に、きょとんとした表情を浮かべるアリア。


可愛く知らんぷりかオマエ。


心の中で微妙にツッコミを入れておいて、
ネックレスについての検討を再開。
この際、山ほどあった100ゲルダクーポンの残りの行方は気にしないことにしたライン。賢明。




「それで、コレどうするんだよ。」


かろうじて切れていない紐を掴み、ネックレスの飾りを見つめるリューン。
皆目持ち合わせていない鑑定眼では何もわかることはない。

ラインも「見たことねー」の一言。



もてあました時間で考えること10分。

アリアが、ふと。





「アウデさんに見せてみるといいって。」





「「「「遅せぇよ。」」」」










巷でウワサの画家アウデ。
タコモンスターに惚れこんで、最近マリンデザートに居座っているじいさん(リューンの考え)

件のネックレスを見せ、これをどうしようかと相談したところ
「直して上げるから、食事をちょうだい」みたいなことを言われたので。





「みなのもの、やるぞーー!!!」


「狩るぞーーー!!!」


「さぁ来いやーー!!」



「なんでそのテンションなんだよ・・・・。」



食事としてリクエストされた『かまぼこスティック』と『海鮮スティック』。
上手い具合に調理っていうか合成してくれるポールに材料を聞いたところ
ここら一帯で手に入るものだったので、すぐに収集を開始する。

凄まじい勢いで格下のモンスターに殴りかかるリューン、ミミウ、ファジー。
ドリルを抱えて追いかけるライン。
アリアは料理を小分けするパックを買いに街へ出かけた。


周辺で大騒ぎしながらモンスターを狩る3人を尻目に、ラインは掘り続けた。永遠と掘っていた。
途中でアリアも狩りの方に参戦してどんちゃん騒ぎ。

必要だと言われた量を集め終わってもまだまだ狩りは続くらしい。


砂地の浅いところから時々出てくる魚の骨。
いくつ掘ってもいくつ掘ってもミミウたちの満足行く量ではないようで
「まだ貴様は甘いぞ!」とだけ言ってくれるので、友達甲斐がない。


昼を大きく過ぎてから出てきて数時間。
気付けば、地平線のかなたに大きな太陽。
綺麗な夕日、とまた騒ぐ始末。



「ミミウー!みんなも!そろそろ帰らないとシンラさんが心配するから
 今日はそろそろ引き上げようぜー!」

最後に一つ、魚の骨を取り出して袋にしまう。
岩陰で眠っていたアリアが立ち上がって頷き。

ミミウとファジーも了解したとばかりにちらかしたアイテムの片付け。

そんな中、リューンだけが叫んだ。


「バカヤロウ!!!オマエら腹を空かしているアウデっちを放っておくのか!!?」


「いつからニックネームで呼び合う仲になったんだよ。
 あの人だっていい歳してんだし、死ぬほど腹減ったら自分でなんとかするって・・・。」


だから帰ろう。
もう帰路へと着く気しかないライン。

そのラインの行動に、やれやれと首を振りリューン。


「空腹に他人も親もない。それに老人を一人にするのは心配だ。
 そんなことも分からないなんてバカかライン。」


続くミミウとファジー。


「そうよ、バカライン。こんな寒空の下、老人を置いては行けないでしょ!」

「そうだ。もしかしたらオレたちが戻ってくるのを待ってるかも知れねぇだろ、バカライン。」



「バカだ。お前らは本物のバカだ。」




背後で猛烈に狂う3人を置いて、もう帰る足は止めない。
今まで何度か言われるがまま立ち止まったが、ロクな結果は生まなかった。

アリアは反論しないらしく、大人しくラインの後ろをついて帰る。




「ちっ・・・ラインのヤツ・・・。」


「もー!不甲斐ないったらありゃしない!」


「とりあえず、オレたちだけでもじいさんの所に行こうぜ!」


「「おう!」」」











で。











「おかえり・・・・3人は遅くなるってラインが言ってたけど・・・。」



「あんのクソジジ寝てやがった!」

「せっかくオレが、かに風味サソリかまぼこだけでもと思って届けてやったのに!」

「やるせねー。」


出迎えたマスターシンラに挨拶もそこそこ
ドタドタと廊下を踏み鳴らし、リビングに突進する3名。リューン、ミミウ、ファジー。

夕食はカツカレー。



「ラインは?」

「うーん・・不貞寝かな、あれは・・。」


アリアはその辺に転がってると思う、もうすぐバクたちも帰ってくるだろうから
そしたら夕食にしようと笑顔でシンラ。

分かったと了承して、本日の収穫を片付ける(主にリューンが平らげる)


「確かラインが魚の骨4回分集めてたから、それだけは残すのよ。」


「分かってるって。」



何してたんだかなぁと考えつつ、サラダの用意をするシンラの手にはトマト。

手伝うと叫んだミミウの手には包丁。



「あ、ファジー。
 もし暇だったらラインに起きてくるように言って来といてな。」



「おうよー!」


またやかましく廊下を走る音と、目を覚ましたアリアの場所移動。




結局。
シンラ自身が、ヒエンにもらった100ゲルダクーポンが何処に消えたか知るのはまだ先のことだった。









To be continued.